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イスラエル大使

ヤッファ・ベンアリ様

 今日はこのようにすばらしい感動的なイベントでオープニングの挨拶をさせていただくことになり、大変光栄に存じます。この場にホロコーストの生存者であるヤーノシュ様にご臨席いただきますことも大変嬉しく存じます。そしてこの場をお借りして、いつも素晴らしい働きをしてくださっている石岡史子様にも感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。さらに本日私たちをお迎えいただきました国連大学のデイビット・マローン様、この場にご同席いただきました私と共に働いていただいている皆様方にも感謝を申し上げます。

 2005年、国連が正式に1月27日をホロコーストの公式な記念日とすることが定められました。これは非常に重要な意味のある出来事だったと思います。世界的な教育において、このホロコーストの記憶に関する国際的プラットフォームが定められたからです。イスラエル国家では、私たちはそれ以前からヤドヴァシェムという記念館を設立し、この記憶を留めていこうと国家として徹底していったわけです。皆様の中でもしイスラエルにいらっしゃったことがある方がおられましたらご存じだと思いますけど、ヤドバシャエムという記念館がございます。このヤドバシェムという名前なんですが「ヤド」というのは「手」という意味です。「バ」が「アンド」、「シェム」が「名前」という意味なんですけれども、ヘブライ語では「手」というのは記憶、メモリアルという意味も思っております。その名前を持ったホロコーストを記念する博物館があるわけですけれども、この博物館の存在はただ世界平和を祈るというだけではありません。このホロコーストの恐ろしい期間中に600万人の方が虐殺されました。この人数は当時ヨーロッパにいたユダヤ人の3分の2にも当たる数でございます。そしてその600万人のうち150万人が子供たちであったというふうに言われております。このヤドバシェムという博物館は亡くなった方々を悼むだけではありません。同時にこの困難な中でもユダヤ人達を救おうとした正義の方々を顕彰するという役目も持っております。そしてもう一つのこの博物館の非常に大切な存在価値は教育を進めていくことです。私達は非常に次の世代にこのホロコーストの記憶を語り継いでいくということを大切にしております。次の世代に教育を繋げていくことによってしか永遠にこの記憶を語り継いでいくということはできないわけです。

 私自身もホロコーストの第二世代でございましてホロコーストを語り継ぐという教育を家庭で受けてまいりました。その教師を務めたのは私の母でございます。私の母はマイダネクの収容所に収容されておりましてアウシュビッツに向けて向かう列車に載せられてそのまま虐殺されていれば私はこの場におりませんでした。そして私の祖父母はホロコーストの中で殺害されました。そして伯父に当たる方も15歳で射殺されてしまうという経験をしました。彼らの記憶というもの、彼らの存在というものは、私の身体、そして心の中に生き続けております。そして私は外交官として国のために尽くしておりますけれども私は仕事を通して語り継いで、国として国を代表する立場としてこのホロコーストというものは二度と起きてはならないということを語り継いていくということが私の大切な任務だというふうに考えております。そしてイスラエルの国の存在というものがユダヤ人の存在というものを記念して体現していく存在でもあるということだと思っております。私は最初、この話をするときに絶対に感情的になってしまうと思っていたのですが、ちょっとこちらで止めさせていただきます。

 そして私の話の最後に紹介させていただきたいのですが、このヤドバシェムですがホロコーストのサバイバーの方々からの証言を集めております。その方々の経験を聞いて記録をとるということを行っているわけですけれども、この記憶を抱えていらっしゃる方々、その方々はこれから亡くなっていくことは非常残念なことでございまして、私たちは時間との闘いをしながらこうした方々の記憶と証言、その方々がいま私たちと一緒に生きて下さっていることに感謝しながら記憶を集めております。私にできることはそうした方々が記憶を証言してくださることを陰ながら支えるだけですけれども、そうした記憶を集めていくこと。これ以上に大切なことはないと信じております。イスラエルでは若い方々がサバイバーの方々と自動的に接触をしてサバイバーの方にお目にかかりお話を聞くという機会をたくさん設けております。そして今回は日本から教育者の方々がはるばるイスラエルまでいらして下さってサバイバーの方にお会いして話を聞かれるというような貴重な機会もございました。こうした方々から聞くお話そのものだけではなくてそうした方々と接触してやり取りをする。これが今までこの方々が経験したことを証拠として残してゆく非常に大切な動きだと考えております。

 そして数年前に国連がこうした教育の価値を認めたというのは非常に重要なことだというふうに思いますがホロコーストについての記憶というものは世界中で共有されなければならないというふうに思っております。イスラエルはもちろんそうした虐殺の被害者をたくさんかかえている国でございますので、この記憶は私達の民族の存在そのもの、エッセンスでもあるわけですので、もちろんこの記憶を大切にしていますが、私たちの国以外にもイスラエルから遠い、近いに関係なく世界中の方々、あるいはこれまでこの事件に関わってこなかったような国々を含めてこの記憶を留めていく、記憶を守っていくということがこのようなことが二度とおきないために非常に大切なことだと思います。そしてこのような国として非常に大きなレベルの事件を記憶して、二度と起こさせないということは人間の自然の姿だと思っております。そして皆様方がひたすらに民主主義そして平和を支持していかれること、これが非常に大切な教訓だと思っております。

そして今回参加いただきました若い世代の方々には参加いただいたことに感謝をさせていただきたいと思います。そしてこの場にいらっしゃる教育者の方々はこの場を実現するため共有するための多くの努力を払ってくださいましたことをこの場をお借りしましてもう一度感謝を申し上げたいと存じます。

2018年1月25日 「ホロコースト国際デー2018 in 東京」国連大学にて

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